★テレビアニメ「日本昔ばなし」との関係は?
「日本昔ばなし」は、1975年1月7日からNET(現テレビ朝日)で放送が始まった。放映時間は、1回30分で毎回日本各地に伝わる昔話が映像化され、市原悦子と常田富士男の両名が、一人で何役もの声を使い分ける独特の語りによって物語が紹介された。オープニングで特徴のある映像と音楽で見るものを一気に引き込んで、映像と音楽そして、ベテランの市原悦子と常田富士男の語りで、お茶の間の人気番組となった。
日本昔ばなしの番組の中で1976年2月28日に一休さんをテーマに番組内で取り上げられた。
しかし、今回紹介する作品「ばんそうのとびだすえほん『一休さん』」は、1975年10月15日に「一休さん」として独自に放送が始まったテレビ番組を基に制作されている。したがって、テレビアニメ「一休さん」が始まっているなか、日本昔ばなしの中で、独自に放映されたことになる。
★この作品に登場する頓智(とんち)話はどのようなもの?
テレビアニメの番組の中で、「一休さん」は、とんち勝負や様々な問題のために、とんちを使って解決させる。とんちを働かせるときには、まず胡座(あぐら)をかき両手の人差し指を舐め、その指で側頭部に2回ほど円を描いてから結跏趺坐(けっかふざ)で座禅し、ポク、ポクという木魚の音をバックに瞑想する。 その後、閃いたときにはチーンという仏鈴の音と共に一休は「これだ!」と目を見開く。何も浮かばない時には一休は瞑想をやめ「だめだ……」と溜息をつく。
とんち勝負の出題時には、出題者が「そもさん(什麼生。宋代の俗語で「さあどうだ」「いかに」と問い、回答者が「せっぱ(説破)」と返し、「汝に問う!」で始まる問答が入る。
今回取り上げた「とびだすえほん『一休さん』」では問題を解決するための話が二つと、とんちを使って解決する話も二つ出てくる。どちらも、よく知られた話なのでご存知だと思う。
- とんちを使って問題を解決する話
①P.3・4で掲載されている話。
和尚さんがこっそりと舐めている水アメのツボは、「毒なのでこの壺の中身を舐めないように」と小僧さんたちに注意をしていたが、水アメであることを知っていた一休さんは、みんなと水アメをすべて舐めてしまった。そのことを知った和尚さんに対し一休さんは、「和尚さんが大事にしていた硯を壊したので、死んで償おうをしてすべてなめてしまった。」と言って窮地を脱した。
②P.5・6で掲載されている話。
和尚さんは、仲良しの太平さんと、夜遅くまで碁を打っている。太平さんが帰るまで、小僧さんは眠れないので、困っている。そこで、とんちを利かして、いつも毛皮を着てお寺に来る太平さんに対して「けものの皮を着た人は、穢れがあるので入っては行けない」と咎めると、太平さんは、「お寺にある太鼓には、毛皮が貼ってあるではないか」と文句を言ったところ、一休さんは、「だから太鼓はバチで叩かれているのだ」と、太平さんをバチを持って追いかけた。
- とんちを使って解決する話
③P.7・8で掲載されている話。
一休さんにとんちでやり込められた太平さんは、和尚さんと一緒に「御馳走」をするからと招いた。途中の橋に〝この橋を渡らないで、おいでください〟との立札を立てていました。一休さんは、平気で橋を渡って来ました。太平さんは、引っかかっと喜んで
「立札を読まなかったの?」と言った。一休さんは、「はい、読んできました」端を歩かずに真ん中を歩いてきたよ。」と澄まして言った。
④P.9・10で掲載されている話。
一休さんのとんち話が将軍様にも伝わった。一休さんを呼んで懲らしめようと思って、お城に呼んで「そちが、一休か。あの屏風にかいてある虎を縛ってくれ」と言って参っただろうとニヤニヤしていた。一休さんは平気な顔で、縄を持って庭にとび降りると、
「虎がそこで暴れますと、将軍さまに迷惑がかかります。虎をここまで追い出してください」と言った。その言葉に、将軍様は、すっかり感心してしまった。
★一休さんは、実在の人?
「一休さん」は、実在の人物で本作品の主人公。室町時代に生きた臨済宗の僧、 一休宗純の幼少期をモチーフにしたアニメ。京都の加茂の河原で子供たちと遊んでいた一休さんの幼名、千菊丸は、後小松天皇の庶子。権力闘争の中、足利幕府より、出家しなければ命がないと強い圧力がかかった。というのも、母親こと伊予の局(藤原照子)は南朝系の娘。父親は当時の武将足利家と対立し戦ったこともある北朝時代の天皇、後小松天皇に寵愛され、後に一休を身ごもる。周囲の妬みから「懐に短刀を隠し持って天皇の命を狙っている」と言われていた。
8歳で安国寺に修行に入って一番の年下。正義感が強く心優しい、聡明な小坊主。周りから「とんち小坊主」、「とんち小僧」と呼ばれていた。桔梗屋、弥生、将軍からの無理難題もものともせず、あくまで本人は「いじめ」とはとらえずに笑って許せるとんち仲間として桔梗屋や将軍さまの繰り出す難題に挑んでいる。
★一休さんが修行した「安国寺」は実在するお寺?
室町時代の初代将軍、足利尊氏によって14世紀半ばに創建されたお寺。もともとは、京都市内に安国寺はあったのだが、現在は、消滅してしまったので、京都府綾部市にある「安国寺」をモデルに、アニメ「一休さん」の舞台として用いたお寺。アニメでは、住職の外観和尚と6人の小坊主しかいない貧乏寺として描かれている。
★この作品に登場する人物
- 和尚さん
名を外観和尚(がいかんおしょう)という。貧乏寺である安国寺の住職。小坊主達を厳しくも温かく見守っており、とんちに優れる一休に対し特に目をかけている。一休さんに何度も挑戦するが、その都度一本取られてしまう。その都度「こりゃ参ったわい」と嘆く。将軍が一休をやりこめちために、たびたび難題を持ちかけてくるのを見て「義満公にも困ったものじゃ」とぼやく。度量の広い人物で、頼られれば日頃は厄介な存在でもある将軍や桔梗屋の相談に乗る。制作者の設定では「外観和尚」とされているが、史実の住職は像外集鑑(ぞうがいしゅうかん)。当時の安国寺は室町幕府が後援している寺院であり貧乏寺ではない。
- 登場する小僧さんは3人だが、アニメでは6名の小僧がいる
本作品に登場する3人の小僧の区分は、判別がつかない。
・秀念(しゅうねん)
安国寺最年長の兄弟子。兄貴風を吹かすものの、お調子者。初期は一休を小生意気と辛く当たることもあったが、良き兄貴分となる。明け暮れる修行の苦しさからか、家に帰れる時は人一倍喜んでいた。
・哲斉(てっさい)
年齢も一休たちとは少し上で、責任感も強く、初めは生真面目で頑固な性格だったが、困っている人は見捨てられない人一倍優しい性格。絵を描くことが趣味。勉強家で、「読み書きそろばんは、一休に勝る」と評されている。
・陳念(ちんねん)
太っちょで食いしん坊。おっとりしてマイペース。年齢は一休とおなじか少し上くらい。口調は一休に対しては厳しい。秀念とつるんで、よく悪さをしている。
・黙念(もくねん)
年齢や背丈は一休くらいで、ちょっとおっちょこちょい。先輩の秀念に頭が上がらないらしくいつも秀念の腰巾着で目立たない存在である。年齢の近い陳念や哲梅たちと仲が良く、よく一緒にいることが多い。
・哲梅(てつばい)
地味であまり目立たない。年齢は一休と同じくらいでそばかすが特徴。
- 太平さん
和尚さんの碁仲間で小間物屋を営んでいる。碁を打つと遅くまで帰らないので、いつまでも小僧さんが眠れないのが悩み。
- 将軍さま
室町幕府の3代将軍、足利義満のこと。劇中では「将軍さま」と呼ばれる。冷酷非情な暴君と噂されているが、根はおおらかな人物。一休さんからも「優しい将軍さま」と慕われている反面、「わがままで子供っぽい将軍さま」と呆れられている。一休さんをしばしば呼び寄せてはとんちをふっかけるが、たいてい一杯食わされてしまう。素直に一休に負けを認めるなど度量も大きい。